大阪地方裁判所 平成10年(行ク)9号 決定 1998年8月17日
申立人
北村忠男
右訴訟代理人弁護士
津留崎直美
相手方
東住吉税務署長
右指定代理人
下村眞美
同
長田義博
同
中村光春
同
後藤利江
右当事者間の平成九年(行ウ)第四四ないし第四六号所得税更正処分取消請求事件(以下「本件訴訟」という。)につき、申立人(本件訴訟の原告)から別紙文書目録記載の文書(以下「本件文書」という。)の文書提出命令の申立てがあったので、当裁判所は次のとおり決定する。
主文
本件申立てを却下する。
理由
一 本件申立ての理由の要旨は、本件訴訟は、推計課税の取消訴訟であるところ、被告(相手方)が主張する推計の基礎となった原告の所得率が妥当でないことを立証するために、本件文書を証拠として提出することが必要であり、被告は、その主張において本件文書を引用しているから、民訴法二二〇条一号に該当し、被告は、その提出を拒むことができない、提出を求める本件文書は、守秘義務が問題になるなら、一部を伏せるなどしたものでもよい、というものである。
これに対し、被告は、本件文書を引用したことはない、被告は本件文書について守秘義務を負うから本件文書の提出を拒むことができる、本件訴訟において被告が主張する推計方法は異議段階における推計方法と全く異なるから異議決定の際に被告が採用した推計の資料を調べる必要もないなどと主張した。
二 当裁判所の判断
1 民訴法二二〇条一号所定の当事者が訴訟において引用した文書とは、当事者が、口頭弁論や弁論準備手続、準備書面、書証の中において、立証又は主張の助け、裏付け若くは明確化のために、その存在及び内容について、積極的に言及した文書をいうと解すべきである。
一件記録によれば、本件訴訟において、被告は、原告の本件各年分の所得を同業者の平均算出所得率を用いて推計するとの主張をし、右平均算出所得率を求めるに当たっては、大阪国税局長が発した一般通達に基づいて、大阪府下の各税務署長が異議段階とは別個に同業者を抽出し、その同業者について、売上金額、一般経費などを調査し、その結果を記載した同業者調査票に基づくものであるとの趣旨の主張をしている。したがって、被告が本件訴訟において立証や主張の明確化のために引用しているのは、本件文書である青色申告決算書自体ではなく、右の同業者調査票であり、本件文書を引用したことにならないというべきである。被告はその主張において、同業者調査票の作成方法を説明するために、青色申告決算書の存在と内容に言及しているにすぎず、立証のためには勿論、その主張の裏付けや明確化のために、本件文書の存在等について積極的に言及したとは到底いえない。
したがって、民訴法二二〇条一号の用件は認められない。
2 また、本件文書は、仮に被告の下にそれらが存在するとしても、民訴法二二〇条四号所定の公務員又は公務員であった者がその職務に関し保管し、又は所持する文書に該当するから、同号所定の一般的提出義務の対象でもなく、更に、同条二号、三号の各要件も認められない。
なお、本件文書は、個人の秘密に属する所得金額、資産・負債の内容等が記載された文書であるから、被告である税務署長は、職務上知り得た右事項について守秘義務を負っており(国家公務員法一〇〇条一項、所得税法二四三条等)、この観点からも、被告は、本件文書の提出義務を負わず、その提出を拒むことができるというべきである。
三 まとめ
以上のとおり、いずれにしても、本件申立ては理由がないから却下することにし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 八木良一 裁判官 北川和郎 裁判官 和田典子)
(別紙)
文書目録
被告が平成八年七月九日付けで原告に対してした原告の平成四年分ないし平成六年分の所得税についての各異議決定の異議決定書(東住吉個第一三五九ないし第一三六一号。甲第一ないし第三号証)の異議決定の理由3の(2)記載のAないしEの同業者が平成四年分ないし平成六年分の各所得税について管轄の税務署長に対して提出した青色申告決算書